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2025年9月27日土曜日

道教と中国医学

図説 道教医学 吉元昭治著 勉誠出版 2018年


道教の経典には様々な中国医書が収められているそうです。王羲之(おうぎし)の書でも有名な「黄庭経」の中には鍼灸経穴名と同じ名が出てくるそうです。


「経絡方面から見ると任脈が最も多く、督脈がこれにつぐ。すなわち正経十二経ではなく奇経八脈の穴名が多い事が分かる。こらは何を意味しているのか。任督脈の奇経八脈は道家でも重視していて、この頭から下腹部までつながるルートは内丹術でいう精気神のルートでもあり陰陽昇降のみちでもある。  ~中略~ 

『黄庭経』と『黄帝内経』が極めて近い関係にあるといえよう。前者が内丹、後者が鍼灸を初めとする中国医学の臨床、基礎の出発点である事を思えば『黄庭経』の中に『黄帝内経』の骨組みがある事をみつけるのもまた容易である。」 191ページ

「『黄庭経』は『黄帝内経』と似ている処があり、後者を下敷きにして、宗教的ヴェールで掩ったものともいえる。」 192ページ


奇経八脈のうち「素問・霊枢」に任脈、督脈、衝脈、帯脈は出てきますが、奇経八脈という名称と八脈すべてが登場するのは「難経」からでしょうか。ただ個人的には「難経」に書かれている経絡が溢れた時の放水路という説明はいまいちしっくり来ません。

奇経治療に使う八総穴は、これを伝えた金元時代の竇漢卿(とうかんけい・1196~1280)によると「河南の小室山の隠者が伝えたもの」で竇漢卿は若い頃にその本を貰ったとあります。


本書では、道士または医師で道教に近い人として

岐伯 扁鵲 華佗 皇甫謐 葛洪 陶弘景 孫思邈 王冰 

などが取り上げられていました。道教では医術や経絡なども独自の解釈がありそうですが、中国医学と道教の関係は深いですね。


参考文献 現代語訳 奇経八脈考 李時珍著 王羅珍・李鼎校注 東洋学術出版社

2025年9月14日日曜日

経筋(けいきん)あれこれ

線維筋痛症は針灸治療で治せる 西田皓一著 たにぐち書店 2008年


「東洋医学から見ると線維筋痛症の原因は「経筋病」であるので、経絡の考え方特に経筋(東洋医学から見た筋肉学)と、それに若干の東洋医学の「臓腑学」を考えにいれると、これらの症状はすべて説明がつき、十二経筋上の経筋病巣(筋肉の中に出来た病巣)に針灸治療をしてやると症状は消失または軽減する。」 12ページ


経筋は鍼灸の古典である霊枢(経筋篇十三、紀元前200年~紀元後220年頃)に記載されています。手足の末端から始まる縦につらなる筋(筋肉)の流れ(十二本)として示されています。


「霊枢概要」神麹斎(左合昌美)著 ヒューマンワールド には

「そもそも「筋」とは何か。古代医書中にあっては極めて含意が広い。筋腱、肌肉、静脈、神経などがいずれも筋と呼ばれていた。つまり上下に連なる紐ないし帯状の組織の連なりはすべて筋系と言える。」86ページ

筋肉だけを指すのではなく腱、靭帯、血管、神経なども含めた複数の筋の連なり、流れとして捉えていたようです。

そして、この経筋の病に対する治療法として霊枢には「焼き鍼(燔鍼・はんしん)を使い速刺速抜(速い抜き刺し・劫刺・こうし)で効果が出るまで刺す(以知為数)」また「痛をもって輸(兪・ツボ)となす(以痛為輸)」と記載されています。

焼き針(燔鍼・火鍼)は針先を火であぶり熱して刺す方法です。

痛をもって(痛いところ)は自覚的または他覚的(押して痛い)の両方でしょうか。他覚的に痛いところは阿是穴(あぜけつ)とも呼ばれています。

痛みのあるところや、想定される流れのルートから圧痛部(押して痛いところ)を探し鍼やお灸をすえるという方法は鍼灸治療の原点を思わせる方法です。


「霊枢概要」神麹斎(左合昌美)著(ヒューマンワールド)

「経筋の主要な治療手段が燔鍼劫刺であると言っても、経筋治療のはじめからそうであったとは考えにくい。馬王堆脈書において、足臂十一脈では灸というが、陰陽十一脈には実は灸とは指示されていないことを記憶すべきであろう。つまり足臂十一脈が発展して経筋となり、熱療法としての灸を改良して燔針劫刺としたのかも知れない。」86ページ


「足臂十一脈灸経」と「陰陽十一脈灸経」は中国の馬王堆漢墓から出土(1973年)された医書です。霊枢よりも古い時代のものとされ、霊枢の経脈篇の前身であるとも考えられています。ただ経脈篇の内容は(他のルートからの知識も合わさってか)ここから大きく変化し十二本の脈が輪のように一本に繋がります。

足臂十一脈と経筋篇は共にすべて四肢末端から体幹に向かうルートになっています(陰陽十一脈は二本のルートが逆方向)。霊枢の中のいくつかの篇にも「「五輸穴」など末端から肘膝に向かうルートや十一本のままのものも残っています。

現在の中医学(現代中医学)で経筋は経絡の概念の中の一つで、経絡が養う筋肉系統とされています。ただ十二経脈や十五絡脈などの流れの上にさらに別の流れを無理に重ねるより、経脈篇成立以前の足臂十一脈を受け継いだ、より古い内容(ルートと治療法)を伝えくれていると考えた方が納得できます。


「改訂版 東洋医学のきほん帳」 伊藤剛著 Gakken 

「最近、西洋医学の分野で、マイヤースによる筋筋膜経線(アナトミートレイン)という考え方が提示されています。筋筋膜経線とは、骨格周囲につく筋筋膜により緊張と運動を伝達する張力のひものようなものです。~中略~ そして、驚くことに、この筋筋膜経線で示された筋肉のつながりは、経筋で示されたものとほぼ同じなのです。二千年以上も昔、解剖学も生理学も発達していない時代に、経筋という身体のシステムを発見していたことになります。」 124ページ

アナトミートレイン=経筋かという問題は置いといて、最近はファシアというのも経絡の正体ではと話題になっていました。さらに数年前に騒がれていたトリガーポイントは痛をもってツボとなす(以痛為輸)阿是穴の考えと同じです。

二千年以上前の古代人の知恵が今の発見と少しずつ繋がって来たのでしょうか…。


参考文献 古典から学ぶ経絡の流れ 浅川要著 東洋学術出版社

2025年8月27日水曜日

線維筋痛症 


線維筋痛症の診断と針灸治療 西田皓一著 ヒューマンワールド 2012年


著者は高知県にある西田順天堂内科の先生です。

線維筋痛症は今も原因が不明とされている難病です。

その症状は広範囲の疼痛、こわばりと多彩な随伴症状がみられることが特徴です。
随伴症状には、全身症状(疲労感、倦怠感、微熱、寒さ、動悸、めまい、ほてり、しびれ)、うつなど精神神経的な症状(不安感、睡眠障害など)、頭痛、乾燥(眼や口)、胃腸症状などがあります。

治療は疼痛治療薬(プレガバリン)や抗うつ薬(うつ症状の改善目的ではなく痛みの緩和のため)、睡眠薬などで、原因が不明の病気であることから根治のための治療法は残念ながらまだ無いそうです。

西洋医学と東洋医学を併用されている著者からすると


「線維筋痛症の場合、あらゆる治療にも治療効果が見られないが、針灸治療することによって即座に患者に治療効果が得られる。」 26ページ


西洋医学の治療では効果が見られないが、鍼灸治療により効果の得られる疾患ということです。


「東洋医学独自の治療手段があり、効果機序が違っている。だから現代医学では難病であっても、東洋医学の治療手段で病気を治すことができるのである。」 13ページ


本書では線維筋痛症を東洋医学(中医学)の考え方にある「経筋病」と捉えて治療されています。

中医学(現代中医学)では経筋は経絡(けいらく)の概念の中の一つで、経絡の中の経脈が養う筋肉系統と考えられています(諸説あり)。鍼灸の古典である霊枢(れいすう、紀元前200年~紀元220年頃)には十二本の流れの経路や治療法などについての記載があります。

「東洋医学から見ると、難病を起こす病因には、瘀血、寒、湿、虚、気(精神的緊張)などがある。これらの概念は現代医学にはなく、またそれらの病態を知る診断手段もなく、その上にこれらの病態を治す治療手段もない。だから現代医学では治らない病気を、東洋医学の治療手段で治すことができるのである。」 15ページ


著者の永年の観察によると線維筋痛症は精神的なストレスが誘因となって起こっているそうです。

精神的緊張、ストレス(内因・七情)→ 気の鬱滞 → 経絡の停滞 → 気・血・水の巡りが悪くなり痛みが起こる(不通則痛)→ 鍼灸(霊枢・経筋篇では燔鍼・焼き鍼のこと) → 気血が巡り、痛みが去る(通則不通)

また線維筋痛症と慢性疲労症候群は病名は違っているが、どちらも同じ経筋病にあてはまるそうです。

線維筋痛症(強い筋肉痛、とくに頚背部に硬直、痛み) 
慢性疲労症候群(全身の倦怠感、筋肉の機能低下) 


霊枢・経筋篇には(霊枢 新釈 小曽戸丈雄著 たにぐち書店 より)

「一般に経筋の病は、寒によっておこったものは、そりかえって筋が痙攣する。熱によっておこったものは、筋が弛緩して収縮しなくなる。 ~中略~ これらの治療に焼針を用いるのは寒邪によって経筋がひきつれたものを治すのが目的である。従って、もし熱邪によって経筋が弛緩し収縮できなくなったものには、焼針を用いてはいけない。」

と寒・熱による症状の違いと治療法の適不適についての説明があります。


線維筋痛症の原因はまだよく分かっていませんが、痛みを脊髄から脳に伝える経路(上行性経路)の興奮、さらに脳から脊髄を下り痛みを抑える経路(下行性疼痛抑制機構)に障害が起こることにより、痛みの感度が増幅されてしまう(痛みの中枢性感作)ことが原因と考えられているそうです。

線維筋痛症の患者に疼痛緩和の目的で処方されている抗うつ薬はこの下行性疼痛抑制系(ノルアドレナリンやセロトニンの増加)に働きかけ痛みを抑えるものです。

実は鍼灸の刺激によっても、痛みが脊髄から脳に伝わるのを抑制したり(上行性疼痛抑制機構)、さらに脳から脊髄に下行し痛みの伝達を抑制する働きを賦活させる(下行性疼痛抑制機構)ことが科学的に解明されています。

ちなみに鍼灸によるその他の鎮痛メカニズムには、脳からモルヒネ様物質(エンドルフィン、エンケフェリンなど)が分泌されたり(神経伝達物質性疼痛抑制機構)、血管を
拡張させ発痛物質の停滞を解消させる…などがあります。

2024年7月12日金曜日

なんだろう?


中医学ってなんだろう 小金井信宏著 東洋学術出版社 2009年


「中医学の元は、大昔の人が作ったものです」 3ページ


「中医学ってなんだろう」という中医学の専門書ですが、この中医学(現代中医学)をいつ誰がどういった意図で何を典拠として作ったのか?などの基本的な情報は残念ながらありませんでした。

これは本書に限らず、そもそも中医学を作った中国が「政治的な秘事」として発表してこなかったので仕方ありません。


「また中医学は、たくさんの学説や解釈のかたまりです。多くの視点が集まると、理解はやはり立体的になります。
このように、複雑なものを「なるべくそのままの姿で」理解しようとするのが、中医学の「捉え方」です。」  6ページ

「中医学には、たくさんの学派・学説・解釈があります。」 7ページ
 
「例えば仏教にも、多くの宗派があります。それぞれの教えの内容は、少しずつ違うものです。でもどの宗派も、みな仏教と呼ぶことのできる共通点をもっています。中医学の在り方も、こうした仏教の在り方と似ています。
ただし1つだけ違いがあります。
それは、「それら全部が合わさったものが中医学だ」という点です。1つの学派について知っても、まだ全体の一部を知ったにすぎません。」 7ページ


「なんでも統一したがる中国」(図説マルマ入門・伊藤武著)と書かれていたのを思い出しました。

中医学は多くの宗派を一つに統一してしまった感があります。

それぞれ考え方の違うさまざまな宗派を「仏教」ということで一括りに纏めたことにより、多くの考えをそこに詰め込み知ることができるという良さもありますが、矛盾も増え複雑になるなどの弊害もまた大きくなってしまいます。

そして、この統一傾向は鍼灸の古典である黄帝内経(霊枢・素問)(黄帝内経以前の陰陽+五行も?)にも感じられます。