2023年5月5日金曜日

針灸史 

針灸の歴史 悠久の東洋医術 小曽戸洋・天野陽介著 2015年 大修館書店


針灸の歴史について、主に「針灸の書物」を中心にまとめられている本です。この本も色々と貴重な情報が多かったです


日本の漢方医学(漢方薬、針灸)は、西洋医学が導入された明治時代に危機がありましたが、有志らの働きかけにより何とか存続し現在に繋がっています。

一方、その前後の中国大陸では、実は日本よりもかなり酷い状況にあったようです。

清代(1636年~)の後期には針灸廃絶政策が実施され針灸は
壊滅状態になりました。その後の中華民国(1912年~)政府による中医廃止令で湯液(中医薬)も含めた伝統医学はさらなる壊滅、低迷状態が続きます。

そして中華人民共和国(1949年~)となり、毛沢東は西洋医学を取り入れた中西医結合医という新たな医学を目指しましすが大躍進政策、文化大革命(1966~1976年)により国自体が想像を絶する悲惨な状況となります。

昭和47(1972)に日本との国交が回復。

この後に中国は国家主導で新たに「中医学(現代中医学)」(1970年末頃からか)を創り始めます

この新たに創られた中医学の問題は以前にも書きました。

https://ohisama-hari.blogspot.com/2022/01/blog-post_22.html

https://ohisama-hari.blogspot.com/2022/10/354p-10-20-69-13-p-1970-1516p.html


中国大陸で伝統医学が低迷状態となった清代から現代中医学が作られるまでの時代を支えたのは、実は日本からの情報や日本の漢方、鍼灸書籍だったようです…

この期間に中国では既に失われた貴重な文献や、日本人著者による多くの漢方・針灸書が中国に渡り出版もされていたそうです。

「中医針灸の成立には近代日本の針灸書の存在が深く関わっているのである。著者小曽戸もかつて先達の岡部素道、間中善雄先生らから直接・間接にその旨うかがったことがある。」   164P

これは中国にとって現代中医学成立の隠しておきたい秘密のひとつでしょうか。


中医学というと一般的に(漢方、針灸の専門家もですが)「中国伝統医学を近年に整理編纂したもの」となんとなく思われていますが、実際は違います。(「中医学」という言葉自体が曖昧に使われている問題もありますが。)


今わかる範囲でこの中医学の定義をまとめると

「中医学(現代中医学)とは、中国政府主導(1970年末頃からか)で、中国伝統医学に西洋医学の概念も取り入れ、中西医学統合を目指した時に創られた中医薬の「弁証論治」の理論を中心に、また針灸にもこれをそのままあてはめ編纂されたもの。ただし現在もその編纂の経緯や典拠は示されていない。また、その成立過程には日本の漢方・針灸書が深く関わっている。」

という感じでしょうか。

現在、日本の針灸学校の教科書は、この中医学の影響が年々強くなってきているようです。学生にとってわかりやすく纏まってるわけでもなく(むしろ理解しにくいのでは?)、他の針灸療法と比べて著しく効果が高いという事もありません。しかもこの中医学とは何かも示されないままにです…。


「最近グローバルという言葉が流行っているが、文化においてグローバル化がその保持や発展につながるとは思えない。むしろ逆行する動きであろう。固有の文化は多様化の結果であり、一様化されればそれは文化とはいえまい。」7P

あらゆる分野でグローバル化が急激に進められている今こそ、日本の伝統に根差した針灸の教科書作りと教育を大切にして欲しいですね。