腹診あれこれ①
腹診はお腹に触れて身体の状態を把握する診察法です。
中国の古文献(難経や傷寒論・お腹に臓腑や病気の反応が現れる)から示唆を得て、日本で独自に発展したものです。
中国ではお腹に触れることは重視されずに衰退し、脈診(手首)を中心に発展しました。これは貴人のお腹に触れることを制限されたり、儒教の影響からとも言われています。
「腹診」という言葉も、中国には無く日本で生まれました。
日本で腹診が発展する下地として、1300年代初頭に腹取り(按腹・あんぷく・小児重視)と呼ばれる腹部を中心にした按摩(あんま)の存在もあったようです。
室町時代初期に執筆された福田方(僧医の有隣、有林・1363年頃・1400年代説も)には腹部の脈動で五臓の病邪を鑑別し、薬の処方や禁忌を決定する「五臓動気論」が記されているそうです。
この時すでに難経と傷寒論の経文を習合し処方まで決定する腹診が存在していたようです。
1500年代になると鍼灸の伝書に仏教(真言密教)の影響がみられ、この思想的背景により腹部の触診が促進されます。
当時の治療として背兪(背中にある五臓のツボ)にお灸をおこない(五臓の根焼・五臓の強化)、腹部では邪虫(三尸・九虫・道教に由来する人体に居るとされる虫)を排除すべく鍼を刺したそうです。
この時代は人間の体内にいて病気を引き起こしたり、思考や感情に影響を与える虫たちの存在が信じられていました。こちらは針聞書(1568年・茨木元行)と呼ばれる書物です。
63種類のユニークな虫たちとその治療法(鍼・灸・薬)が示されています。
血積(右)「大病の後 胃之府に在り 砕てみれば 血積なり 縮砂(しゅくしゃ・生薬)煎じ かけて 皆消するなり」
肝積(左)「肝積 名付けて肝気(肥気・難経五十六難)という 形は乳の如し 左の脇より胸上角さし登る 常に怒ることをなす 面の色青かるべし 生れは東方(臍の左)の木(五行)なるゆえ 青き色を司る 人を呼ぶ(怒鳴る)ことを好む 酸いものを好むなり 油臭きをにくむ これ有る人は肝の病とせり 左の積を本に刺し 後ろ(背中)は九の椎(肝兪)を刺すなり 虚実によって補瀉あるべし」
このユニークな虫たちがどのように生まれたのか(空想?)は謎ですが、腹診を行う時に腹部の積(かたまり)や各々の反応を、お腹にいる個性的な虫たちを探すような気持で、逃げないように優しく触れると捉えやすくなるかもしれませんね。
ちなみに、虫ではないですが… 最近は腸活という言葉をよく耳にします。腸内環境(腸内フローラ)が病気や健康と大きく関連しているということが知られています。さらに、うつや感情など、脳や心の状態にも深く関わっていることが指摘され始めています。
お腹と健康、そして菌(虫?)… 面白いですね。
この頃から、全身のあらゆる疾患を腹部で治療する無分流など打鍼(うちばり・だしん・槌で鍼を打つ)の流派が活躍し腹診はさらに発展していきます。
つづく。
参考文献
漢方腹診書・鍼灸流儀書に関する書誌研究 長野仁
腹診考(1)大塚敬節
腹診考(2)大塚敬節