三焦あれこれ②
つぎに難経(黄帝八十一難経)から三焦について抜きだします。
三十一難 三焦の働きとは、何処で始まり終わるのか、治療はどこを使うのか?
水穀の道路(消化器)、気の終始する所(活動のすべて)なり。上焦は心下の下膈に在り、胃の上口(噴門)にあたり内る(入る)を主り出さず。其の治は膻中にあり。玉堂の下一寸六分で、左右の乳間の陥、是なり。中焦は胃の中脘にあり、上でも下でもなく、水穀の腐熟を主り、その治は臍傍に在り(天枢)。下焦は膀胱の上口にあり、清濁の分別を主り、出すを主り入れず、以って伝導する。その治は臍下一寸(陰交)に在り。故に名づけて三焦という。その府は気街(気の道、全身の頭・胸・腹・脛)に在り。
三十八難 臓は五なのに、腑は六つあるのはなぜか?
腑が六つ有るのは、三焦があるからです。原気の別で有り、諸気を主持す。名有りて形無く、その経は手の少陽に属す。これ外府なり。
六十六難 五蔵の兪(穴)は三焦の行く所。(三焦の気の)留止する所。三焦の行く所の兪を原(原穴)と為すのはなぜか?
臍下の腎間の動気(丹田)は人の生命なり。十二経の根本なり。故に名を原(気)と曰う。三焦とは原気の別使なり(原気を輸送する使者)。三気の通行を主り、五臓六腑を経歴す。原とは三焦の尊号なり。故に(三焦の気が)止まる所を輙(すなわち)原(穴)と為す。
諸々の十二経脈は、皆な生気の原に係る。所謂、生気の原とは、十二経の根本を謂う。腎間動気を謂う。これ五蔵六府の本、十二経脈の根、呼吸の門、三焦の原、一名守邪の神。故に気は人の根本也。根が絶するときは則ち茎葉は枯れる。寸口脈の平にして死する者は生気が独り内に於いて絶する。
中国医学の身体論 古典から紐解く形体 浅川要著 東洋学術出版社 2022年
「『難経』第三十八難の記載やさらにそれを拡大させた『中蔵経』などは、人体のあらゆる気は三焦が総領することを主張するが、これを三焦の機能とするならば、三焦はすべての臓腑の機能を統括していることになってしまう。三焦はあくまで六腑の一つである。」 122ページ
難経は黄帝内経の難解な部分を説明した書といわれていますが、全体的に個性を強く感じます。特に三焦については独自の解釈をされているようです。
膀胱に属し尿の排泄の役目であった一つの府が拡大され、水穀の道路、気の終始する所、原気の別、諸気を主持す、腎間の動気(下丹田)の原気の別使と尊号まで与えられ、さらに名有りて形無く、その府は気街に在り…となっています。
三焦 = 上・中・下焦 = 消化排泄(脾+五府の働き) = 人の生命(腎間の動気)の別使 という感じでしょうか。
黄帝内経(素問・霊枢)に
「六府なる者は水穀を化して津液をめぐらす所以の者なり。」 霊枢・本蔵
「五蔵なる者は皆気を胃に受ける。胃なる者は五臓の本なり。」 素問・玉機真蔵論
とあります。
難経では主に脾+五府の働き(消化排泄)を総合したものを三焦と呼んでる気もします。
「脾・胃・大腸・小腸・三焦・膀胱なる者は、倉廩の本、営の居なり。名づけて器と曰う。能く糟粕を化し、味を転じて入出する者なり。其の華は脣の四白に在り、其の充は肌に在り。其の味は甘、其の色は黃。此れ至陰の類たりて、土気に通ず。凡て十一蔵、決を胆に取るなり。」
「『霊枢』経脈篇では、陰の経脈には関係する蔵の名が冠され、陽の経脈には府の名が冠されています。 ~中略~ ところが、これには少し問題があります。 ~中略~ 手の陽の経脈の病症の中には、府と関わるものが全く出てこないからです。 ~中略~ 陰の経脈と蔵の関係以外は、眉に唾をつけておいたほうがよさそうです。」 56ページ
よくわかる黄帝内経の基本としくみ 左合昌美著 秀和システム 2008年
「『霊枢』経脈篇では、陰の経脈には関係する蔵の名が冠され、陽の経脈には府の名が冠されています。 ~中略~ ところが、これには少し問題があります。 ~中略~ 手の陽の経脈の病症の中には、府と関わるものが全く出てこないからです。 ~中略~ 陰の経脈と蔵の関係以外は、眉に唾をつけておいたほうがよさそうです。」 56ページ
一旦、五行に応じた五臓五府に戻し、陽の経脈からは府の名前を外して、難経の三焦は一つの府でなく「身体全体を三才で捉えた概念から発展させたもの」「脾+五府の働き」「独自の解釈のひとつ」…と考えても良いかもしれませんね。
そして次回は日本へ…
参考文献
人体で繰り広げられる表裏の関係 篠原孝市
公益社団法人 大阪鍼灸師会HP 素問霊枢報告 篠原孝市
営衛と両焦三焦概念の変遷についての考察 日本内経医学会 林孝信
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F11497722&contentNo=1
『素問』『霊枢』における三焦概念の変遷 日本内経医学会 林孝信
http://jshm.or.jp/journal/56-2/56-2_226.pdf
公益社団法人 大阪鍼灸師会HP 素問霊枢報告 篠原孝市
中国医学の身体論 古典から紐解く形体 浅川要 東洋学術出版社 2022年
改訂版 いちばんわかる 東洋医学のきほん帳 伊藤剛著 Gakken 2024年