2024年4月8日月曜日

伝統医学の諸問題


伝統医学の諸問題 鍼灸医学からのアプローチ 藤原知・藤本蓮風編著 昭和48年 伝統医学新人の会

1970年はじめ頃の鍼灸医学の現状と問題、提案についての論文などがまとめられています。

この時代は、戦後25年程過ぎ、情報化社会に向けて鍼灸の科学化(西洋医学化)も進んで行こうとされている時代でしょうか…。

6世紀に大陸から鍼灸がもたらされ、時代とともに日本独自の様々の鍼灸流派が生まれましたが、明治になって西洋医学が主流となり漢方、鍼灸は衰退を余儀なくされました。

「それは大陸から伝来した輸入と模倣の内容から脱皮、発芽して、わが国の歴史と風土のなかで日本人の民族的特質、生活様式、労働等々の諸条件に応ずるべく日本的な独自な展開と開花をなしとげてきたその基盤のうえにこそ、それを伝承し今日的に発展させたものとしての現代日本の鍼灸が成立するのでなければならないと考えるからです。」41ページ

ここでは日本鍼灸各時代に興った流派研究の重要性が提言されています。

「゛古流 各鍼術の栄枯盛衰にはそれなりの理由が見出されるのですが、それら各流派の日本鍼灸術という太い流れのなかで位置づけ、その理念の解明、理論上および技法上の特色などへの証明、整理、そして体系化を行うなかで一本の筋の通った日本的、伝統的な鍼灸医学の基本的特徴を明らかにするとともに、中国や朝鮮でのそれとの差異性を浮彫にし、日本鍼灸医学の全体像-未来へもつながる全体像を明らかにする課題がここにあるとおもわれるのです。」41ページ

現在、日本の伝統鍼灸というと、昭和初期に活躍された鍼灸師、柳谷素霊(やなぎや それい 1906年~1959年)が「古典に還れ」と提唱され、それに呼応した方たちによって創出された経絡治療(けいらくちりょう)を指すことが多いようです。

ちょうど本書が出版された頃に日中国交正常化(1972年)が行われ、これ以降に中国からの情報が増え、それに伴い日本の鍼灸学校の教育内容も中国(現代中医学)の影響力が年々増していきました。

その間、日本の鍼灸流派の研究はあまりされて来なかったのでしょうか…。ただ平成15年に杉山真伝流の文献の発見されたり、この前後からようやく流派に関する情報や研究も増えて来たように感じます。

「この課題の実践は単に医学上の遺産の継承にとどまらず、民族の文化遺産の継承の問題とも深いかかわり合いをもつことは言うまでもありません。41~42ページ

日本の各時代に興った鍼灸流派の研究を踏まえた、伝統文化としての鍼灸の体系と教育が日本の鍼灸学校に根付くと良いですね。